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カラカラと鈴の実の音があちらこちらから聞こえてくる。これがあると便利だと渡された袋の中には沢山の鈴の実がたまっていた。赤い実はありがとう。僕もお世話になった図書館の人や皆に赤い実を渡した。あとはユーリを探すだけだ。
「あ、あの・・・これ」
「ん?なんだい?」
振り返ると立っていたのはよく図書館を使ってくれる女の子。彼女は小さな包みを僕に渡した。去って行った後に開くと黄色い実が入っていた
「ひゅー、やるな色男」
「レイヴンさん」
レイヴンさんも腰に布袋を下げている。中身は鈴の実だろう。僕は赤い実を渡した。
「や、こりゃどうも」
「あの、ユーリ見ませんでしたか?」
「ああ、ユーリのあんちゃんならちょっと前に会ったよ。時計塔にいるかも」
「ありがとうございます」
「ん。あの子をよろしくね」
僕ははいと頷いて街の中心に向かって走った。
風に靡く長い黒髪。時計塔をのぼった先で僕はユーリをみつけた。声をかけると彼は一瞬驚いた顔をしてから微笑う。
「よくここだってわかったな」
「レイヴンさんが教えてくれたんだ」
僕は一つだけ買った黄色い実を取り出した。お店によって同じ黄色でも色味や光沢が少しずつ違う。色んなところを見てやっと決めた黄色い実だ。差し出すとユーリは一拍おいてからそれを受け取った。
「おまえなぁ・・・」
「ユーリはくれないのかい?」
するとユーリはポケットから赤い実を取り出した。がっくりと肩を落とすとユーリは「んな情けねえ顔すんなよ」と腰に手をあてる。だって、同じ色の実が欲しいのだ。
「仕方ねえな・・・」
ユーリはもう一度ポケットに手を入れた。出てきたのは黄色い実。首から下げる用の紐がついているタイプで、僕が渡したものよりも少し柔らかい色をしている。
「ユーリ・・・!」
「いっとくけど、オレのこの実は普通のと意味が違うからな」
「どういう意味だい?」
「自分で考えろ」
ユーリはそっけなくそう言って教えてくれない。それでも嬉しくて、僕はユーリに抱き付いた。
夜になると街には様々な色の光が灯され、人も増えて賑やかになった。僕はユーリと手を繋ぎその中を歩く。男同士でお手手繋いで歩くのかなんて言っていたユーリも諦めたらしく振りほどこうとはしない。ソフトクリームを買ってあげるとユーリは上機嫌になって軽く握り返してくれた。こういうところは少し子どもっぽい。
「そろそろだから、見通しのいいとこに移動しようぜ」
何が、とは聞かずに言われるまま商店街を抜ける。
橋の上には街の人や他の灰羽も集まってきていた。そこから少し離れた川べりのベンチ。ユーリはここが特等席なのだという。
見上げた夜空に大きな花火があがった。
赤。緑。オレンジ。白。黄色。水面に反射し輝いては消えていく光。赤はありがとう。緑はおめでとう。オレンジは元気でいてね。白はありがとうさようなら。
黄色は、あなたが好きです。
ユーリの黄色い実はどういう意味なのだろう。
「ユーリ」
呼びかけて、こちらを向いた彼の唇にキスをした。
*
赤と黒を基調にした衣装は血で濡れていた。
握った手は冷たい。もう決して開くことのない目。
なんで。どうして。問いかけても決して君は答えてはくれない。
(おまえはオレなんていなくても大丈夫だよ)
いつかそう言っていた。どうしてそんな風に思うんだろう。そんなはずがないじゃないか。
(オレはおまえのためならなんでもしてやるけどさ、おまえは同じようには絶対に思うなよ)
治癒の呪文を唱える僕に誰かがもう無理です、無駄ですと声をかける。うるさい。そんなこと、わかってる。
(泣くなよ。バカだな。騎士団長様だろ)
あの日、僕は君を失った。