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外を歩けば小さな商店すら飾り付けをしている。
街中にツリーが立ち、カップルが手を繋いでクリスマスの予定を話し合っている。
日本人はお祭り好きだ。
最初にクリスマスという西洋の文化が持ち込まれたのはいつだったか。
覚えてはいない。
だが色男を自称し女遊びを趣味と言い切る男も、この時期だけは人目を避けて山や自室に引き篭もって過ごしてきた。

ひどく顔色が悪い。
普段はすっと伸びた背筋は僅かに曲がり、瞳の紫は普段よりも赤みを帯びて見えた。
「隆之・・・大丈夫?」
「ん、ああ。過ぎればおさまるから、気にしないでくれよ」
甘い声に瀬戸口ははっと顔を上げる。青い瞳が心配そうに顔を覗き込んでいた。
軽薄に笑ってみせる余裕もない。笑顔が笑顔になっていない。
厚志の目には、ただ体調が悪そうというだけでなく暗い気のようなものが立ち上って見える。
「厚志も・・・しばらく俺のことはほっておいてくれ」
懇願するような僅かにかすれた声。
人目を避けようとする態度も、まるで普段の瀬戸口らしくない。
厚志は眉を下げ、そんな彼に寄り添った。
瀬戸口の手が厚志の肩を抱こうと宙をさまよって、やめる。
「だから、厚志・・・」
「僕も部屋まで行くよ」
「あのな、」
「俺が決めたことだ。隆之」
有無を言わさない。厚志は決めたことは誰がなんと言おうと実行する。
大きな青い瞳に覗きこまれ、瀬戸口はそれ以上反論できなくなった。


瀬戸口隆之は人ではない。
新鮮な死体にとり憑き、1000年もの時を渡ってきた鬼である。
女子供の守り神でもあった。
そこまで詳しく聞かされたわけではないが、厚志は瀬戸口が人でないのは知っている。
今の厚志の目には、それくらいは見ればわかる。
彼が今、とても苦しんでいることも。
一般的にクリスマスと呼ばれるこの時期は、東洋の神である瀬戸口にとっては辛いものらしい。
ここ数日は食事もろくにとらず、急に苛立ったり落ち込んだり情緒が不安定だ。
「今は誰にも会いたくない。そっとしておいてほしい」と、瀬戸口は言う。
「うそ、でしょ」
「何で・・・そう思うんだ」
「ほんとは寂しがってる。僕にはわかるよ」
どこまでも青い青い瞳。
厚志の、見えないものを見る力は日に日に強まっている。リューンが、妖精が彼に懐いている。彼の意思に従うことを望んでいる。
人ではない何かに変わろうとしている。
その白くまだ幼さの残る手が額に触れると、ひんやりとした感触があって辛さが少し和らいだ。
「新井木が言ってたんだけど、クリスマスは、大事な人と一緒にいる日なんだって」
厚志が微笑む。瀬戸口は思いきり抱きしめそうになって踏みとどまった。
「駄目・・・だ、出てってくれ、厚志」
白い首筋。甘い香り。華奢な骨格。
食らいたい。
柔肉に歯を立て、噛み千切り、骨を砕いて、その甘美な血をすすりたい。
その細い脚から、指の先まで、全て食らい尽くしてしまいたい。
そしたらきっと楽になれる。この人の全てが手に入る。
だから。
息が荒くなる。ああ、駄目だ。
昔・・・大昔、野山で、動物を食べて暮らしていたころの微かな記憶。
違う、俺は、厚志は、
「抱きついてこないの?」
甘い声で厚志が言う。わかってるくせに。
瀬戸口は威嚇するように厚志を睨んだ。常人ならば震え上がりそうな視線は、既に人のものではない。
厚志の手が瀬戸口の頬に触れる。柔らかくて、あたたかい手。
目が回る。目がくらむ。瀬戸口は唾を飲み込んだ。
「おいでよ。僕なら大丈夫だよ」
「やめろ・・・」
厚志の声は、薬だ。麻薬だ。抗い難い。抗いがたい。本能を揺さぶる。
そうだ。昔からそうだ。この声のせいで、そのために、1000年も苦しんできた。
金の鎖が見える。細い手足を繋いでいる。唇を噛んだ。血の味が広がる。
瀬戸口は顔を押さえた。
違う。違う。違う。
「おいで、隆之」
こわい。食らいたいが、傷をつけるのは、こわい。
やめさせてくれ。止めてくれ。やっぱりひとりの方がよかった。
「泣かないでよ・・・・いいこいいこ」
厚志の手がよしよしと頭を撫でる。瀬戸口は厚志の胸に顔を埋め額を擦り合わせた。
こんな風に泣いてるのを見るのは初めてかもしれない。不謹慎ながら、かわいいと思ってしまう。
辛そうだし、なんとかしてあげたいけれど。
厚志は目を細めて瀬戸口を見ながら、考えた。考えて、愛おしそうに囁く。
「ねえ・・・隆之。セックスしよっか」
瀬戸口が顔を上げた。紫色の目は赤みがかり、鋭く縦に裂けた瞳孔が暗く輝いている。
厚志は聖母のように微笑んだ。
「しよう。ね?」
甘えるような声。
次の瞬間、瀬戸口は厚志に掴みかかると押し倒し、噛み付いていた。
口内で自分の血と、厚志の血の味が混ざる。瀬戸口はうっとりと目を細めた。
唾液と血が白い肌を汚す。それを啜ると青い髪を押さえつけて捕食するように口を塞いだ。
白い肌につめを立てる。
お互いの舌が絡まる熱。
何度も何度も角度を変えて口付け口内を蹂躙する。鼻から抜けるように厚志が甘く呻いた。
「シオネ・・・あなたが・・・わるい」
あしきゆめのような、暗い欲望に駆られた声。
厚志はくすりと笑って、自分から口付けた。唇を舐めてちゅっと音を立て、瀬戸口の下唇を吸う。
元はただの死体である脳が痺れる。心臓が痛い。
この青い瞳を、口に入れたらどんな味がするだろう。甘いにおいが嗅覚を刺激する。
抱きしめる瀬戸口の手が、筋張って爪が尖り色も変わっていく。
恐ろしい異形の気配を放つ瀬戸口を、厚志は大きな猫みたいだなと思った。喉を慣らしながら飼い主に擦り寄っているよう。
瀬戸口は寂しがり屋でロマンチストで意外と嫉妬深くて手がかかる。
長く生きているらしいくせに、お世話してもらわないとまるで駄目なのだ。
瀬戸口からすればおまえにだけは言われたくないというところだが。
厚志の血で塗れた指先で瀬戸口は厚志の唇をなぞった。
「なんで・・・わらう」
「いや・・瀬戸口、辛そうだけどかわいいなって」
くすりと、あっけらかんと、猫でも愛でるように。厚志はもう一度「かわいい。隆之」と囁いた。
瀬戸口は一瞬、罪の無い微笑みに浄化されたようにきょとんと目を見開く。それから大きく息を吐き厚志と額をくっつけた。
こちらは、厚志を傷つけたくなくて正気と理性をどうにか繋ぎ止めようとしているのに。この言い草。
「おまえな・・・俺が、どれだけ・・・・・・」
「ふふっ」
「・・・知らんからな」
厚志が悪い。

 


「あっ・・・・あぐ、あぁ・・・んっ・・・・」
後から肩口に噛み付きながら腰を揺らす。
擦られすぎた乳首は赤く腫れ、何本も白い筋の伝っている太ももはがくがくと震えている。
全身に赤く歯型がつき、傷だらけの無残な姿だった。
胸を弄くっていた瀬戸口の手が厚志の下腹部へと移動する。痩せて少しは筋肉もついてきた腹が、今は少し膨らんでいるように感じる。
ぐっと押してやると引き攣った喘ぎ声があがり、接合部から汁が漏れた。
一度引いて再び突き刺す。陸にあげられた魚のようにはねる厚志の身体を押さえ込み先端を奥の奥に押し込んだ。
「ひゃう・・・・あ、だ、ああ・・・っ、ぐりぐり、きもち・・・」
はふはふと息をしながら幼い声で訴える厚志。既に何度出されたのか、イったのかわからない。
優に数時間は超えていたが、もう時間の感覚もなかった。泣きすぎて目元も腫れている。
瀬戸口の手が厚志のやっと勃起するようになった性器を包むように掴む。
奥を突かれる度にびくびくと震えて先端から透明な液を流しているが今は散々射精させられた後で完全には固くなっていない。後ろで達した回数の方が圧倒的に多かった。
性器を弄られ、ふいに厚志は尿意を感じた。
危機感を感じて厚志は瀬戸口から逃れようともがいたが、瀬戸口が許すはずはない。
「おちんちん・・・だめ・・・・や・・・っ・・・あっ、だめえ・・・」
皮の剥けた先端を指でえぐるように弄くられ、悲鳴を上げる度にきゅっと中が締まる。
そのままずこずこと奥を突かれてまたぽろぽろと涙が零れた。感じているようなのに嫌がりだした厚志に瀬戸口は目を細める。
「きもちいいん、だろ?どうした?」
「きもちい・・・でも、ごめ・・・・」
「なんだ?」
「・・・おしっこ、いく」
厚志は身を震わせた。次このまま行ったら勢いで漏らしてしまうかもしれない。
厚志は、大抵の恥辱も苦痛も経験済みだったが本質的に綺麗好きでそういう面に関しては神経質だ。
それに、ラボでの行為と瀬戸口との行為は違う。失禁なんてもってのほかだ。
瀬戸口は数秒黙ってから、厚志の噛痕を舐めた。
「・・・いいよ」
「なに、が」
「ここでしろよ」
「ば・・・・」
罵倒される前に、瀬戸口はわざと厚志の尿道を弄くった。厚志が普段はとても聞けないような焦った声をあげる。
堪えようとぐっと力をこめると一緒に後孔も締まる。
瀬戸口は妖しい笑みを浮かべると一度一気に引き抜いて厚志の身体を仰向けに反転させた。
足を広げるように押さえつけて見下ろす。
快楽に溶けた表情に、普段の余裕も精錬さもない。
「いいよ。おしっこして」
「や・・ばか、おれが、そゆの・・・嫌いだって知って・・・・・・ひっ!」
瀬戸口は巨大な質量を失いぱくぱくと口を開けていた後孔に再び人外の性器を突き入れた。
厚志の呼吸が止まる。
「ひゃっ・・・ああ・・・!!だめ・・・っ」
ごりと前立腺を刺激された瞬間意識がとんで、同時に緩みのあった尿管からちょろりと液体が零れだす。
「あ・・・あう・・・・・」
瀬戸口の指でその先端を刺激されると、我慢できずに瀬戸口と繋がったまましゃああと音を立てて排尿してしまった。
温かい尿が瀬戸口の鍛えられた身体に、厚志自身の身体にかかって零れてシーツを塗らす。
つんと独特なにおいがした。
「ばか・・・ばか、きたな・・・・」
「厚志のその顔かわいい」
恥ずかしさで真っ赤になった厚志の顔を見て、仕返しのように言うと瀬戸口はそのまま律動を再開した。



湯気が立ち上る。

広くも無い風呂に未だ小柄とはいえ男二人で入るのは狭い。
外はほの明るく、既に夜が明けようとしていた。
瀬戸口は厚志の身体を後ろから膝に乗せ抱きしめながらその下腹部を撫でていた。
散々つけた噛痕は爪痕は、既に塞がりかけている。普通の人間ではありえない再生力。
傷が残らないのは、安心もするが寂しくもある。
「あれだけ出したんだから・・・妊娠すればいいのに」
「あのねえ・・・すればいいのにって、僕これでも男なんだけど」
「これでもねえ」
膨らみ自体はかなり小さくなった胸を撫でると感じやすい厚志はぴくりと身を震わせる。
「瀬戸口、気分はどうなの?」
「悪い・・・が、厚志の血と体液を舐めておしっこを浴びたからかなりマシに・・・がっ」
厚志は瀬戸口の顎に頭突きをした。悶絶する瀬戸口。
しかし実際、厚志と身体を交わらせた結果去年よりもずっと身体が楽な気がする。
体調不良は人々の信仰のせいらしいから、シオネたる厚志とのセックスは有効なのかもしれない。
そんなことを思いながら瀬戸口は湯船の中で厚志の後穴に触れた。
ずっとヤりっぱなしだったから、閉じきっていない。尻たぶを広げて指を挿れてみる。
「ん・・・・やめ、お湯入る・・・から・・・・・・」
「このまま、挿れていい?」
「はあ・・・?」
厚志の尻に勃起した瀬戸口の性器があたっている。厚志の内部が疼く。あんなにしたのに。
まだする気なのか。
「いい・・・けど・・・・」
いい終わる前に瀬戸口は厚志に挿入していた。一緒にお湯が侵入する感覚に厚志は首を振る。
「あ・・・・あっ、ん・・・・・・」
「厚志の中、あったかい。ずっと挿れてたい」
「ばか、言わないでよ」
厚志がいつもより優しい。芝村のもとに行かなきゃとも言わない。
たまに弱るのも悪くないかもしれないと瀬戸口は腰を揺らしながら思った。

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