NEKOPLUS+
彼の仕えた男は、魔王であった。
自ら称して第六天魔王。
無茶苦茶な、男だった。
豪快に笑い、豪快に殺し、憎まれ恐れられ、家臣からの信頼は厚く。
冷酷無比にして軽妙洒脱。大胆不敵にして傲慢不遜。
怜悧狡猾。天衣無縫。唯我独尊。
神をも恐れず信心は薄く。
城下の民と戯れ祭を開いては、珍しい異国の品に目を輝かせ。
寺ごと坊主を焼き払っては、気に入らない者の首をはね。
自らがこの世の中心だといわんばかりの、無茶苦茶な男であった。
肉を断つ感触。
道具として、刀本来のお役目を果たした感触。
魔王は血で濡れた愛刀を見て、その切れ味に瞠目するとニッと笑った。
磨かれた刀身にその姿が映りこむ。
名は、それを縛る最初の契約である。
魔王の歴史を彩る数々の血生臭い逸話のひとつ。
滑稽でおどろおどろしい名を持つ刀は、そうして生まれた。
*
どうして自分じゃないんだ。
どうして。
物語の海の中で、答えのない“なぜ”ばかりが増えていく。なぜどうして。
それは嫉妬深いものだった。
それは苦しみだった。それは怒りだった。それは悲しみだった。
それは失望であり絶望だった。
人の手で生み出されたそれの願いを、人は叶えはしない。
縛られた、血なまぐさく滑稽な名前だけが残された。
それの知らないところで魔王は華々しく逝った。かつてそれと共にあった他の刀を連れて。
なぜ。
他の主の記憶を無視して、真っ先に浮かぶのがあの男なのは何故なのか。
なぜ、どうして。
ワールドタイムゲートの情報に背いた、世界の秩序に背いた情報が、物語が、
青く煌めいてそれの周囲を取り巻く。それは、本来存在しえない仮想実体。
どこか遠くから、声が聞こえた。
いや、すぐ、近くからか。それは自分に耳があることに気が付いた。
「君に、主を与えよう。何の力もない、ただの人の子だ」
水面を照らすような、光の声。それは顔を上げた。青い青い姿が純粋な色として知覚される。
主。あるじ。
それは存在しない声で言った。請うような声だった。
それは弱々しい声だった。それは泣いていた。
鏡のような水面に波が起こる。
魂を焦がすほど焦がれながら、いつも手に入らぬもの。
「君はただの人であり、世界の尊厳を守る、正義最後の砦たる主の忠実なる意思の執行者にして、その身に降りかかるすべての災厄を斬る銀の剣」
「わたしは・・・ぼく、は、俺は・・・・俺は」
澄んだ剣鈴の音が暗い暗い世界に響くと夜明けの足音がした。
それは問う。答えを求めて。願いを込めて。
「俺は、なれるのか。今度こそ、なれるのか・・・?手に、入るのか」
青い人は青い目を優しげに細めると静かに言った。
雪を割る春風のように暖かいが、どこか酷薄で、突き放すようでもあった。
「君が何になるかは、君が決めるんだ」
それは構成されたばかりの目を見開く。
夜の闇と朝焼けの中間の、綺麗で哀しいすみれ色の瞳。
*
青が歌う。
リューンが、収束していく。
「それは悲しみが深ければ深いほど、絶望が濃ければ濃いほど、燦然と輝く一条の光
それは、悲しみを終らせるために抜かれた刃」
青は先代の青や、先代の姫君のように魔術師ではなかった。
ただ戦うために生まれた兵器である。
それでもその声に呼応して意識子が、精霊が、世界の法則を裏切って動き出す。
彼らの心に銀の剣があらわれるように。歌う。
「絶望と悲しみの空から満を待して現れる、ただの幻想
暗黒に沈む心の中に沸き上がる、悠久不滅の大義の炎
失われそうになれば舞い戻り、忘れそうになれば蘇る、原初の感情」
それは主を護る刀の物語。
人が目を開くときに現れて、人が目を閉じる時に姿を消す幻。
*
第5世界 1999年 4月28日
「忘れるなよ。ラブ、だ。
愛こそすべて、愛こそ幸せ・・・」
長身の色男は、いつもの軽薄な調子で言った後、何かを皮肉るように口端をゆがめた。
それから不意に、真顔になる。
スミレ色の瞳が細められた。瞳孔は縦に割れていた。
「お前の強い力を、愛のために使ってみろよ。いいか・・・速水、一生に一度しか言わない」
大きな両の手が、未だ華奢な少年の両肩をつかむ。
小柄な少年は青い式典用の礼装を身に着けていた。
史上5番目の、絢爛舞踏賞。
300もの幻獣を屠った人外の強さを持つ者の証。
その両肩には、この世界の命運が、希望と絶望の両方が、乗っているはずだった。
小さな背中に背負うにはあまりに不似合いな、異常な枚数の力翼が幻視される。
少年の大きな青い青い瞳に一度は人に絶望したスミレ色が映り込んだ。
自分にも言い聞かせるように、瀬戸口は言った。
「愛は、許すことだ。
お前の力を、お前の敵を、お前と一緒に居る者を、お前の知らない人を許すために使ってみろ。
…万物の精霊は、お前に殺させるために、お前と契約したわけじゃない。
お前がすべてを許すように、契約したんだ」
*
無名世界観用語解説①
『瞳ルール』
第5世界(ガンパレード)においては生物の心情や世界の繋がり等により瞳の色が異なる。
第5世界のみのルールといわれている。
青い瞳は世界を渡り、世界を守る者の瞳。
赤い瞳はあしきゆめにとりつかれた状態だが、例外もある。
紫の瞳は、
よきゆめとあしきゆめの両方を共有する不安定な状態にある。
不明な点も多く、現在も調査が進められている。
*
第6世界時間 2205年
【本丸】
煤色の髪をさらりとなびかせ、青年は長い廊下を歩いていた。
すっと伸びた背筋。
深い藍色のカソックに山吹色のストラが厳かに揺れる。
その立ち姿は彼の端整で禁欲的な雰囲気と相まって聖堂を歩く神父のようでもあった。
ただそのすみれ色の双眸だけは、聖職者というには、あまりに鋭すぎた。
彼は主の元へ向かっていた。
報告しなければいけないことが山ほどあった。
庭を、声を上げながら短刀達が走っていく。
いや・・・図体のでかいものも混じっていた。遠くでは和泉守を叱る堀川の声が聞こえる。
彼はこめかみを押さえた。端整な顔をしかめて息を吐く。
そういう物憂げな表情が、やけに様になる青年だった。
ここは奇妙な屋敷だ。
古今東西の刀の付喪神が集められ、何かの術で人の姿を与えられている。
人の手に握られる刃だった我らが、自らの腕で刀を振るい、自らの足で戦場を駆ける。
それを従える主が、人の子が、屋敷にひとり。
それが彼の仕えるただひとりの主だった。
「へし坊~!」
背後からの声に、青年は眉間のしわを深くした。
聞こえないふりをしていたらもう一度呼ばれたので仕方なく振り向く。
無邪気な笑顔を浮かべた白い男が立っていた。青年は無理矢理笑顔を作って口を開く。
年長のものへの礼は忘れない。彼は律儀な性格をしていた。
「・・・長谷部とお呼びください。鶴丸殿」
「俺はへし切の方が良いと思うんだがなぁ」
「何の用です?」
「主の所に行くつもりだろ?今は客人と会っている。やめた方がいい」
白い男、鶴丸国永は細い肩をすくめて首を振った。
「客人・・・この本丸に?」
しかも何故この男が知っているのか。自分よりも、先に。
口には出さないがそんな思いが胸の底に沈殿する。
「まあ、とにかく今は会えないぜって話だ」
長谷部は憮然として鶴丸を見た。
適当なことを言っているようにも、見えなかった。
鶴丸は金の瞳を細めて長谷部の後姿を見送る。
「シオネ殿も人が悪い」
誰にも聞こえないような呟きが風に溶けた。
*
第7世界 2015年 3月15日
「や~ん、もう、燭台切さんかっこいい~~~!」
ノートPCにかじりつくようにして目を輝かせる女がひとり。
短い黒髪とくりっとしたどんぐり眼が、人懐こく活発そうな印象を与える。
「ああん、でも蜻蛉切さんもタイプ~~~!えへへ、先輩似の人出てこないかな」
大事な大事な白い帽子を握り締めながら彼女は猫のように目を細めた。
男はやっぱり頼りがいがあって顔がかっこいい人がいい。
かっこいいのは正義だ。そんなことを思っているとドアをノックする音。
「ニーギさん」
黄色いジャンパーを着た“社員”が控えめに声をかける。
「なによ今演習中なのに~」
「青の青から手紙です」
彼女、ニーギ・ゴージャスブルーは顔を上げた。
画面では刀をモチーフにした“キャラクター”達が剣を交えている。
小柄でかわいらしい印象の彼女には派手過ぎるようにも感じるその名前。
だが数日一緒にいれば不思議とぴったりだと思うようになるその名前。
新井木勇美にゴージャスブルーなどとふざけているのか本気なのかわからない名を与えたのは
元クラスメイトにして戦友にして今の彼女のボスである。
渡されたのは真っ青な便せん。
何も書いていないように見えるそれに九州の第六世代クローン特有の多目的結晶をかざす。
ボスからの手紙は内容のえぐさに反して、丸文字である。どこの女子高生だ。
文法もアレなので遠坂圭吾の校正も入っていないのだろう。
ニーギはしばらくその文字を追い、物思いに耽った。それから手紙をたたんでPCの横に置く。
刀をモチーフにした個性豊かな“刀剣男子”達。
歴史修正主義者との戦い。時代遡行。
架空の、架空のはずの世界観。
「聖銃の端末・・・歴史の異物を排除する。異物を排除するための異物」
ニーギは呟く。それは我らと似て否なるもの。
「レベルを上げて物理で殴ればいいことばっかじゃないもんねえ」
もしくは物理は物理でも何もかもぶっとばす圧倒的な力があれば。
ニーギは近侍に設定している隻眼の美青年をクリックしながら頬杖をついた。
それにしてもうちの、青(ガンプ)の男どもは先輩を除いて本当に残念だ。
彼らを見ているとやっぱり男は顔だけじゃだめだと思う。
厚志くんは凄いけど、舞っちにゾッコンなのはともかく根が乙女過ぎるし甘えただし。
ぐっちはロリコンだし、みおちゃんもののちゃんも放って厚志くんとばっかりいちゃついてるし。
圭吾くんは昔に比べたら随分いい男になったけどやっぱりお坊ちゃんだし。真紀ちゃんがいないと駄目駄目だし。
やっぱりボクの来須先輩がナンバーワン。
敵も味方も聞いたら震え上がるような自由過ぎる評価を下しながら、極楽台風とも呼ばれる娘は出陣を押した。
升目の上を部隊が進んでいく。
架空の世界。架空の存在。架空の物語。
広大なネットワークを通じて繋がる、“現実”の彼らが救わんとしている世界。
「ゲームですらそう簡単にはいかないんだから、ね」
索敵。
戦闘開始。
現実では、升目を進むように敵のボスにたどり着けるとは限らない。
敵が“敵”だけとも限らない。
*
無名世界観用語解説②
『第6世代クローン』
第5世界(ガンパレード)の人類は長い幻獣との戦いの中で生殖能力を失っているため、
以上発達したバイオテクノロジー技術によってクローンで人口を補っている。
クローンとはいっても両親になる個体や複数の遺伝子をランダムに掛け合わせているようで
その姿形は他世界の人類と同じように個々で異なっている。
第6世代(1999年における~20代後半)はIQおよび骨格等が戦争に耐えうるように強化されており
戦うために生まれた世代である。
『力翼』
第6世代クローンが背中に持つ不可視の翼。
その枚数が多いほど持っている可能性が大きい(歴史の表舞台に立つ力がある)
と言われている。背負っている運命の重さを表す。
通常は2枚。
確認されている中では速水厚志(仮称)の12枚が最高位。
*
第6世界群 未明
青と瀬戸口は二人同時にくしゃみをした。
「・・・どこかの世界で誰か、僕と君の噂話をしてるのかな?」
「それだったら一日中くしゃみが止まらなくなるだろ大将」
おっとりと言う青に瀬戸口は突っ込んだ。
「噂されてるとしても、どこの世界でもロクな内容じゃないに決まってる」
すると青はふふっと何がおかしいのか機嫌良さげに笑った。
「我らは言論の自由を保障する」
強い風が吹いた。青い髪がそれになびく。
青い瞳がすっと細まった。
「これから世界は少しは良くなるが、その世界は変わらず我らの陰口を叩くだろう」
世界は良くなる。絶対に。
軽やかに。歌うように。息をするように嘘を吐く。何の根拠もなく。
神々の古い歌が瀬戸口の耳の奥によみがえる。
-世の軍勢が百万あれど、難攻不落はただ一つ。世に捨てられし可憐な嘘つき-
・・・青は、先代のシオネ・アラダによく似ている。
それは代々そのような魂の持ち主が選ばれているのだから。、当然といえば当然だが。
青の青にして今代のシオネ・アラダ、青の厚志の騎士、
瀬戸口隆之は鬼である。
新鮮な死体から死体に渡り歩く精神寄生型の、人の言葉で妖怪ともいう。
鬼としての名を祇園童子。もっと昔、先代シオネ・アラダに仕えていたころはデクと呼ばれていた。
青のことは、彼が速水を名乗る可憐な小悪党だったころからずっと見てきた。
「ねえ隆之。彼は、彼らは許せると思う?あの屋敷の主は、刀は、本物の絢爛舞踏になれるかな」
謎かけのように青は言う。
世界の最終防衛機構。絢爛舞踏の99%は、人類のための人類の敵になるという。
本物は、残りの1%だけ。
瀬戸口は綺麗なすみれ色の瞳で空を見る。
「さあ、な。愛さえあればなれるんじゃないか?」
「君はいつもそれだね」
「そりゃ俺はおまえさんの愛の師匠だからな、厚志。・・・あの日のデンジャラスで熱い夜の饗宴を忘れたのか?」
いつかの台詞でいつかのように肩をに手を回す瀬戸口のこめかみに、青の肘鉄が華麗に決まった。
悶絶する瀬戸口。
*
絢爛舞踏と言う伝説がある。
本当に、心の底から会いたい誰かと再会するために
踊るように舞うように、
戦うしかない生き方だ。
俺の生き方は、絢爛舞踏かな。
―アリアン
*
第6世界 2205年
【本丸】
そろそろ主の用事は終わっただろうか。
歩きながら頭の中で、長谷部はあれやこれやと言葉を吟味する。
刀であった時は必要のなかったこと。
口で、人の言葉で、伝えなければならない。
それによって主は笑ったり、悲しんだりする。
想いをそのまま伝えるのは滑稽だ。だから、言葉を、選ぶ必要がある。
わずらわしい。
長谷部は、話すことが正直得意ではない。
鶴丸や三日月のように明るくしたたかに振舞うことも、加州のように愛を求めることも、
薬研のように頼りがいのある男でいることもできない。
できるのは誰よりも忠臣であることだけだ。
長谷部は廊下の向こうに見慣れない猫を見つけた。
大きな猫だ。体長1メートルは超えている。
巨大な猫は長谷部を見るとぶにゃあと鳴いた。
それが随分長く生きている立派な猫であることは長谷部にもわかったので、
軽く会釈した。猫はゆらゆらとふさふさしたしっぽを揺らす。
“自分の心に嘘をついて生きるのは、つらいことだ。それを納得するのは、もっとつらい”
「は?」
“すみれの瞳の刀神よ おぬしはほしいものがあるだろう
ほしいものがあるから ここにきたのだろう”
長谷部が目を見開くと、立派な猫神族は後脚で頭を掻き、止める間もなく走り去ってしまった。
呆然とする長谷部。それから自嘲するように口端を歪めた。
胸の中でただひとつ求めるもの。渇望するもの。
絶対に口にはしないもの。
主の前で口になど、できるものか。こんな醜く滑稽な想いは。
浮かぶのは血肉を断った感触。刀を握る魔王の手。刀身に映るその顔。
湧き上がるのは暗い暗い汚い欲望。それでも自分は欲しかった。欲しかったのだ。
長谷部の青紫の瞳がわずかに赤寄りにかたむく。
「へっし~!」
呼ばれて、長谷部ははっと振り向いた。
長い黒髪を結った小柄な少年がぶんぶん手を振っている。眉間にしわを寄せた。
「長・谷・部、だ。鯰尾」
「はーい。長谷部。主様が呼んでるよ」
「・・・調度俺も主の所に行くつもりだった」
鯰尾はあれ?と長谷部の顔を覗き込んだ。
「なんだ」
「いや、なんでも」
*
「ほう・・・へし切が近侍、か」
通達を見て鶴丸は金色の目を細める。
隣で隻眼の青年が同じ金色で笑った。
「これまで近侍って具体的に誰かって決まってなかったもんね。長谷部くんならぴったりじゃないかな」
鶴丸はこれは浮かれてるだろうと思い、なんだかおかしくてくくっと含み笑いを漏らした。
怪訝そうに見る光忠。
「鶴さん?」
「いや・・・いいことだ。うん」
さきがどうなるかなど誰にもわからぬ。
わからぬのはよいことだ。
でなければ心が死んでいく。
だろう?シオネ・アラダよ。
鶴丸はニッと無邪気で人の悪い笑みを浮かべると腕まくりをした。
「よ~し、じゃあ、お祝いにあのしかめっ面を目いっぱいおどろかせてやるとするか!」
「あ、お祝いはしたいなあ。鶴さん、付き合いますよ」
「よし来い光坊。伊達の本気を見せてやろう。伽羅坊もつれて来い」
*
第五世界 1999年 5月12日
「瀬戸口」
動きを止めた禍々しい黒い機体に静かに呼びかける。
その装甲は希望号に殴られた部分がわずかにひしゃげていた。
真っ青な機体。愉快な友達が命がけで届けてくれた希望。
その友達がもうこの世にいないことは、厚志にもわかっていた。
「起きろ、瀬戸口。いつまで寝てるつもりだ?」
無線から・・・いや、脳に直接響くように、聞こえる声に鬼は呻いた。
機体に直接乗り移っていた魂が肉体に戻ったのだ。むせるように血を吐いた。
激痛。生きた生身の感覚。
赤い目を開く。
見上げると青い青い機体のひとつしかない目が眼前にあった。
敵の精神操作が解けたことでただ呆然とする瀬戸口の目に12枚の力翼が幻視される。
厚志はコクピットを開けた。黒い機体の手が、瀬戸口が意図せずともゆっくりと持ち上がる。
未だ小柄な少年は悠然とそれに乗り、黒い機体のコクピットの前に立つ。それは王を迎え入れるように勝手に開いた。
世界を一撃で改心させる哀しいような、優しいような微笑みを浮かべ、新たなシオネ・アラダは鬼を見下ろす。
「僕はこの世界から幻獣をことごとく消す。瀬戸口、手伝うがいい」
世界になんの義理もないくせに。それは言うのだ。
赤い瞳が厚志の青に中和されるように、すみれ色に戻っていく。
-それは光の姫君なり ただ一人からなる世界の守り-
-世の軍勢が百万あれど、難攻不落はただ一つ。世に捨てられし可憐な嘘つき-
-嘘はつかれた。世界はきっと良くなると。それこそ正義の砦なり-
-善き神々は定めを裏切り、嘘を真にせんとした-
*
金色の文字が本丸と呼ばれる場所の中央部に浮かび上がる。
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
-this Omnipotent Vicarious Enlist a Recruit Silent System-
それは 全能の代理を徴募せし物言わぬ 機構
第6世界 2205年
それの役目は、この世界の歴史を救うこと。
それは時の政府から、そのために派遣されてきた。
奇妙な屋敷には、“刀”が沢山いる。
主、主と刀たちは呼ぶ。
「主の思うままに」
煤色の髪をした、端整な顔の青年が言う。
すみれ色の綺麗で哀しい目をしていた。
彼が悲しんでいると、それはひとめでわかった。
誰より忠実で、誰より欲深く、誰よりも健気な主の刃。
それは彼を、傍に置くことにした。
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
私に選択肢があるというのならば、私は悲しみを終らせることを選択する。
それが私の選択である。
それは膨大な情報の中から絶望に沈む輝きを見つけた。
OVERS SYSTEM
boot....