NEKOPLUS+
誰もに愛され誰もに微笑みかける
そんなあなたが好きで恨めしかった。
*
速水の細い手首を掴んで、瀬戸口は歩く。
痛いわけではないが、絶対に離す気配がないような、そんながっしりとした掴み方。足は真っ直ぐに、目的地へと向かっていた。
「瀬戸口くん」
高くて甘い、速水の声。
瀬戸口は振り向いて綺麗はすみれ色の瞳を向けた。
可愛らしい朝顔模様の浴衣を着た速水が困ったような顔で瀬戸口を見ている。
女物の浴衣だが、眩しいほどよく似合っていた。
女性陣のチョイスだ。
浴衣なんて着たことないし女物はちょっと...と断ろうとしていた速水にそれを着付けるのを買って出たのは瀬戸口。
皆にじりじりと迫られ逃げ場を塞がれた速水は観念して着ることにした。この少年、押しに弱い。
仕上げに髪飾りまでつけられて、本人は少しは男らしくなったし絶対おかしいよと言い張ったがどこからどう見ても可憐な美少女の出来上がりだった。うなじの白さと手首の細さが際立つ。瀬戸口などは着付けが終わった後、見惚れて思わず涙しそうになったほどだ。俺の姫はかわいい。
瀬戸口はというと、紺地のシンプルな浴衣に身を包んでいる。優男を装っているくせに意外なほど厚みのある身体が強調されて、雰囲気も、なんだか普段とは別人のようにすら見える。
無論中身はそのままだが。
「いい男はなんでも似合うだろ?」
速水はなんだか悔しくてそっぽを向いた。
いつかこんな体格になれたら女扱いされることもないのにと思う。
*
皆でにぎやかな祭を楽しみ、日も暮れそろそろ花火があがるという時間。
瀬戸口は隙を見て、速水を連れ出していた。
人ごみのなか、いなくなった二人を探すのは困難だった。
速水がいないという滝川に、舞は「迷子か。瀬戸口がついているなら心配はなかろう」と答えた。
速水にずっと瀬戸口が付き添っているのは皆見ていた。気弱そうでかわいらしい速水をひとりで歩かせるのは不安だが、困った輩に絡まれても瀬戸口がついているならひとまずは安心だ。
あやつは軽薄だがそういう面では頼りにして良い男だ。
舞の思考回路には、その瀬戸口が速水に手を出す危険性というのは含まれていなかった。滝川も同じく。
「ねえ、どこ行くの?」
「ん~・・・ちょっと、な。足元は大丈夫か?」
「うん」
慣れない下駄で歩く速水の足元を気遣いながら、瀬戸口は石段を登る。
どこからか甘い花の香りが漂っている。見ると小さな花の神がちらちらとこちらをうかがっていた。
静かに静かに、神々がざわめきだす。髪を揺らす風が心地よい。
階段の途中に縞模様の猫がいた。瀬戸口が笑うと「にゃあ」と鳴いて速水を見る。速水に頭を撫でられて猫は気持ちよさげに目を細めた。青い瞳をしていた。
一陣の風が吹いて神社の木々をざわめかせる。それ以外は、静かだ。
そう、黙って見ていればいい。瀬戸口の瞳が輝く。
「瀬戸口・・・?」
虚空を見つめる瀬戸口に速水は不思議そうに尋ねる。なんだか、不思議な雰囲気だ。
石段を登り始めてから空気が変わったのを速水は感じていた。何だか現実感がないような。
不思議な世界に足を踏み入れたような。そんな雰囲気。
自分の手を引くこの男に関しても、そうだ。何だかいつもと違う。
瀬戸口は速水の手を握りなおすと、その甲に口付けた。騎士が忠誠を誓うように。
速水の頬が赤く染まる。
「なっ・・?」
「行こう」
綺麗なすみれ色の瞳が優しく笑う。その瞳孔は人外の、鬼のものだった。
小さな神社は静まりかえっている。
人気はないが、灯篭には赤く炎がゆらめいている。灯篭に憑いた神が光を灯していた。
二人が踏み入れた瞬間、青い光が淡く周囲を舞った。瀬戸口の鋭い視線に脅され神々は黙り込む。
速水は気配に、不思議そうに首を捻った。
瀬戸口に促され、速水は石段に腰掛けた。
調度、夜空に花火があがる。戦争以外で火薬が使われるのを見るのは初めてだった。
夜空に色とりどりの光が花咲いて、速水の幼い横顔を照らしては消える。
人々の目を楽しませるためだけに、火花が飛ぶ。
「綺麗だね」
呟いた速水の細い肩を瀬戸口は引き寄せた。
強い力に、思わず顔を赤らめる速水。瀬戸口は周囲に視線を配って、口端を吊り上げる。
“彼ら”が話かけることすら許さずに瀬戸口はぎゅっと速水を抱きしめる。戸惑う速水の胸元に瀬戸口はそっと手を差し入れた。
柔らかな肌の感触。今日の速水は胸にサポーターを巻いていない。
びくりと、華奢な体が震えた。
「ちょっ!・・・ここ、外」
速水は焦って声をあげた。
いくら誰もいないとはいえ。
「しずかに」
しいっと唇に指をあてて、瀬戸口は笑う。
静寂に混じる気配。
速水は急に、何かに見られているような気分になった。ひとりじゃない。それも、数え切れないくらい、沢山。
困惑する速水をよそに瀬戸口の手は小さく柔らかな乳房を撫で上げる。小さくはなったが、まだ少女のように脂肪がついている。優しく揉むように指を動かして。小さな乳首を摘む。速水は身を震わせてそれに耐えた。
また、花火が上がって瀬戸口の端整な顔を照らした。
「やっ・・・ここじゃ、嫌だ、瀬戸口!」
「ここだからいいんだよ」
速水は瀬戸口の顔を見上げた。普段の軽薄な顔とは違う。
どこか人外じみた微笑。
速水は悟った。瀬戸口は、この気配に気がついている。それでいてわざとこんなことをしている。
正体不明の羞恥心と危機感に、速水は瀬戸口の手を掴んだ。だが上手く力が入らない。瀬戸口は速水の身体をまさぐり浴衣のあわせを乱した。白い太ももが露になる。
「やめ、見られ・・・てる」
「流石に気づくか」
姿を現さずとも。速水はそれを感じるようだ。
「安心しろ、人間は、絶対に来ない」
「そういう問題じゃ・・・」
言い終わる前に瀬戸口は速水を押し倒した。
地べたにも関わらず浴衣が汚れず痛くもないのは、神々のせめてもの加護だった。
乱れた白い浴衣からのぞく細い手足。ああやっぱり、速水は和装がよく似合う。
改めて思いながら瀬戸口はその肌に触れた。背筋がぞくぞくする。
細い足首を掴んで、脚のラインを指で辿り太ももを撫でる。柔らかな肉はひどく美味しそうに見えた。
瀬戸口の手つきが先ほどよりも荒くなる。
その手は普段よりも大きく骨ばり、気配も目つきも変わっている。
速水は周囲に人ならざるものの気配を強く感じていた。皆、こちらを見ている。
落ち着かない。
「んっ・・・ぁ、」
瀬戸口は大きな獣のように速水の首筋に噛み付くと乱した浴衣に手を入れ速水の下半身をまさぐった。下着を引っ張って、鋭い指先で破ってしまうと爪を人間に戻して敏感で柔らかい部分に触れる。
そんな目で見てもこれは俺のだ。
凶暴な独占欲と優越感が血となり体を巡る。
「やっ・・・あっ、だめ・・・やめろ」
速水の手が瀬戸口の顔を押さえる。瀬戸口はそれをぺろりと舐めた。
「なんで?」
「僕・・・俺は、こんなの・・・家、帰ってから」
「だめだ」
見せてやらないと。
ぎゅっと片手で胸を握ると速水の綺麗な青い目から涙が流れる。
「今代のお姫様はえっちだからな」
「なんの話・・・あっ・・やっ・・・!」
白い両の脚を掴まれ開脚させられる。幼い性器が外気にさらされた。まだ陰毛すら生えていない。
奥の柔らかな蕾に指を挿れて、具合を確かめる。
「あっ・・・あ・・・・・」
人差し指を挿し込んでぐるりとかき回す。ゆっくりと抜き差ししてやれば甘い声があがる。
じわじわと高められる身体。速水の身体は快楽にすこぶる弱い。瀬戸口の骨ばった指で弱い場所を弄くられるとすぐに理性は溶けてはしたなく腰を揺らしてしまう。速水はそんな自分の身体が、恥ずかしくてたまらない。
だからこんな場所で自分を犯そうとする瀬戸口を溶けた思考の隅でうらめしく思った。
あの白い壁の中で散々弄られて、けがらわしい手で犯されて、その結果がこの身体だ。
瀬戸口だって、察しているだろうに。
瀬戸口が耳元で囁く。
「好きって、言って。厚志」
意識を引き戻されて速水は掠れた声で尋ねる。
「ど・・・して」
「言ってくれ。じゃないと、やらない」
速水の蕾が切なげに締まるのを感じながら瀬戸口は優しく言った。
浅い部分を指だけで弄られて速水は小さく声を漏らす。いらないと、言いたかった。文句もある。
しかし焦らすように指の先だけで蕾を弄られると身体の奥が切なくて耐え切れなくなってしまう。
いじわる、という目で速水は瀬戸口を見た。
「厚志」
促すように瀬戸口が言う。腿に太くて固いものが擦り付けられた。
それが欲しくてたまらない。速水は衝動に弾かれるように口を開いていた。
「っ・・・・好き」
「もう一回」
「・・・・・・好き、隆之」
シオネ・アラダの言葉に神々はまたざわめく。瀬戸口は満足げに笑うと神々を見やり、速水の足を掴むと一気に挿入した。
細い身体がはねて、浴衣の袖が揺れる。
「あああっ!・・・あっ・・・ひゃう・・・・あっ」
根元まで雄を咥えこんだ速水は白い喉を反り返らせて喘いだ。
望んでいた熱い塊に内壁が収縮する。木々のざわめきに混じって、いやらしい水音が鳴る。
見られている。
しかし身体が求めるのを止められない。
「厚志・・・」
「あっ・・・あっ・・・!」
瀬戸口は目の前の光景に見惚れながら腰を打ちつけた。
神族の灯篭の明かりに照らされながら、浴衣から乳を肌蹴させ足を開いて喘ぐ速水の姿。
なんて綺麗なんだろう。1000年の飢えも満たされるような。
見ろよ。この人は俺のものだ。
熱が増す。
次第に、瀬戸口の雄は速水の内部で人のものではなくなっていた。サイズも凶悪さも、半幻獣化している。
華奢で繊細な作りの人形のような身体が壊れはしないかと不安になるが、速水は見た目よりずっと丈夫だ。
内部が拡張され、すべすべの平らな腹は質量で僅かに膨らんだように見えた。
「うっ・・・あっ・・・、んっ・・・・!やだ、おっき・・・」
苦しそうだがどこかうっとりしたような速水の声。
幼さと妖艶さが同居した表情。はくはくと息を漏らす小さな唇はいつもよりも赤く、まるで紅を差したように見える。
身体を貫く圧倒的質量。圧倒的な熱。瀬戸口が動く度、幼い身体は無意識により快感を享受しようと動いた。
きもちいい。おかしくなる。
奥を突き上げるのと同時に速水の身体が大きくはねた。悲鳴があがる。
「っ・・・あああっ!!あっ・・・・あ・・・・・」
痙攣するその身体の中に瀬戸口は精を注ぎ込む。一適残らず。
その量もまるで人外のそれだった。
ああ、これで孕んでしまえばいいのに。
速水の腹を撫でながら瀬戸口はゆるく揺さぶる。こんな身体に自分のものが全ておさめられていると思うと不思議だ。
ずるずると引き抜くと口を開けたままの孔から瀬戸口が出したものがどろりとこぼれる。
足を広げ、そこを晒したまま絶頂の余韻に浸っている速水を見下ろし、瀬戸口は咎めるような風の声を聞いた。
姫は孕まぬ。
「いや・・・わからないじゃないか。何度も試してみないと」
「せとぐち・・・・・?」
瀬戸口は垂れ目を優しく細めて再び速水に覆いかぶさると深く唇を重ねた。