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「あのさ、岩田くん」
「なんでしょう?」
「背、伸びるのかな・・・声も」

 


速水は女のような声で言った。

同年代の女子と変わらない背丈と、少女のような風貌が彼のコンプレックスだった。
診察のために肌蹴た白いシャツからは小ぶりな乳房がのぞいている。
長年女性ホルモンを投与され続けた結果、速水の身体は雄でありながら雌の特徴を併せ持つ
奇妙なかたちをしている。
あらゆる箇所を散々弄くられた身体がこれからまともに成長するのか、速水は不安だった。

眉を下げた子犬のような表情を見て岩田裕は「ふむ」と顎に手をやる。
頼りなげな肩。肉付きの薄い身体に細い手足。
確かに、速水は小さい。
せいぜい芝村の末姫と同じかそれ以下といったところだ。
はっきり言って成長不良。

今日の裕はメイクをしていない。顔色を隠す必要はなかった。
あやしい電波も受信していない。嘘をつく必要もなかった。
速水は大きな青い瞳で裕を見つめる。
幼いころからずっと焦がれてきた、青い色。
「瀬戸口くらい大きくなったら嬉しいんだけどな・・・あと、胸もなくなるよね?」
「・・・では、少しよろしいですか?」
裕は速水のシャツを広げて白い乳房に触れた。男にしては異常に発達した乳腺。
触診されて速水の顔が恥ずかしそうに紅潮する。
恥ずかしがる方が恥ずかしいと本人もわかってはいるのだが。
裕はそんな速水の表情を観察しながらいつものように淡々と胸の張りを確かめる。
乳房は時間をおけばなくなるだろうが、
乳首に関してはかわいそうだがこのままだろうなと思う。
それをぎゅっと人差し指の側面と親指で摘んだ。小さく声が上がる。
「・・・っ、ぁ・・・」
「あの後、服が濡れたりは?」
速水はふるふると首を横に振る。
摘んだままでいると数秒で指が濡れた。
搾るように強弱をつけて指を動かすと、速水の手が裕の腕を掴む。
「やめ・・・・」
「まだ出ますねぇ・・・」
裕はすんなりと手を離した。その指をペロと舐める。甘く感じた。
速水はそれを物言いたげに見ている。
「なんでしょうか?」
視線を泳がせた後、速水は口を開いた。
「・・・君は、何をたくらんでるの?」

岩田裕からは下心を感じない。
速水は長年の経験から、自分に対する欲情やそういった下心には敏感だった。
ずっとそれを利用して生き延びてきたのだ。
岩田からはそれを感じない。
自分の正体を、どこまでかはわからないが...知っているようなのに、何かと助けてくれるのも不思議だった。
速水の言えたことではないが、電波云々変な演技を続けているのは何故なのか。
瀬戸口も岩田も何を考えているのかさっぱりわからない。
速水を名乗る少年は、下心以外の好意やプラスの感情にはとことん鈍かった。

裕は少し考えて、速水の胸元に直接顔を寄せた。慌てる速水。
「ちょ、なにっ・・・!」
背に片手を回し、思いきり吸い付くと僅かに甘いそれが口内に広がる。
速水の手が力なく裕の頭を掴んだ。
「あ、あぁ・・・ん、や・・・・・・」
舌で弄られ明らかに感じている声があがる。
快感に速水の背がぞくぞくと震えた。力が入らない。

しばらく吸って、満足した裕はペロリと乳首を舐めて口を離した。
ごくりと嚥下する。悪くない。
「・・・私には野望がありましてね」
裕は顔を上げた。
「野望・・・?」
「フフフ・・・イィですねそのドン引きした顔。すごくイィ!」
耳まで真っ赤になった速水の顔。青い瞳が非難がましそうに見つめている。
裕はそれを見ながら柔らかな頬に触れた。
「背は、伸びますよ。心配しなくても。あなたは大きくなります」
裕の冷たく長い指が、速水の頬から喉元へゆっくりと滑る。
片手で掴めそうな華奢な白い首筋。
「声も、しっかり男性のものに変わるでしょう」
背はすらりと高く。息を呑むほど美しく。
声は誰もが聞き入るほど凛々しく。光そのもののように。
その時、かつて最強といわれた青のオーマの復興を、誰もが知るだろう。
その姿を目に焼き付けるだろう。
それを想像すると、楽しみで楽しみで踊りだしたい気分になる。
裕は微笑んで速水の柔らかい唇をなぞった。


「私は私の野望のためにあなたに協力します。それではダメですか?」

 


速水は大きな目を細める。
あの人に似た青い瞳。

“僕は・・・未来の護り手になりたいと思っていました”
“いい夢だ”
幼いころからのただ一つの憧れ。
そのためだけに全てを騙してついてきた嘘だった。
竜になどくれてやるものか。

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